マンモグラフィー-同じ種類のフィルムを使用していても、ファントム露光のフィルム濃度が異なる理由
製造メーカーとフィルムの種類が同じでも、乳剤の違いにより測定濃度が異なる可能性があるだけでなく、さまざまな理由により、かなりの頻度でこうした現象が発生します。実際に問題となるのは、たとえば、中間濃度の一範囲(つまり「感度の一範囲」)内の濃度の違い、または同程度の濃度レベルでのACRファントム画像の濃度の違いが、どこまで妥当または「許容範囲」とみなされるか、ということです。
ここでは、測定濃度が変動を引き起こす可能性のある、さまざまな原因を考察します。この情報を確認することで、ACRファントム画像のフィルム濃度変化に対して、不要または誤った対策を取ることがなくなるでしょう。
濃度変化を引き起こす要因は1つである場合もありますが、多くの場合は、複数の要因を伴い、個々の要因が少しずつ影響して全体的な測定濃度差が生じます。次のドキュメントでは、頻繁に発生するシステム要因を示します。
処理済みフィルムの濃度変動の考えられる原因
X線露光のチェックリスト(一部)- 使用されたフィルムの乳剤番号やロット、または製造後年数の違い
- 処理薬品のブランド、種類、混合の均一性、および製造後年数
- フィルム処理による処理薬品の化学変化(シーズニング)
- 処理薬品の補充量
- X線機器の違い
- 経年変化によるX線露光装置のキャリブレーション精度と露光再現性への影響
- X線露光設定の選択
- AECセルの選択とセルの位置
- AECセルに対するファントムまたは人体部分の位置
- 使用するコリメータの違い
- 安全灯の完全性/状態
- マンモグラフィーフィルムをプロセッサーに送る際の乳剤面の向き(表裏)の一貫性
- フィルムをプロセッサーに送る際のフィルムの位置(右側、左側、中央)の一貫性
- 使用するカセッテの違い
- (上記14の続き):使用する増感スクリーンの違い
- カセッテ内のフィルムの装填状態/方向
- 使用するファントムの違い
- 非専用型プロセッサーでのフィルムの混在
- 露光から現像までの時間の変動
- フィルムの相反特性
- 使用されたフィルムの乳剤番号やロット、または製造後年数の違い
メーカーとフィルムが同じでも、乳剤ロットの違いにより、平均諧調度(コントラスト)、感度(スピード)、曇り、最大濃度などの感度測定特性が異なることは珍しくありません。市場主導の(または規制による)許容条件と、製造業者の営業上の良識に基づき、これらすべての性能パラメータについて、製造誤差の許容範囲が設けられています。一般的に、フィルム本来のコントラストが高いほど(すべてのマンモグラフィーフィルムは「高コントラスト」フィルム)、感光計の測定上も実際のX線露光結果でも、わずかな露光変動の結果として生じる濃度変化はより顕著になります。これは目新しいことではなく、「高コントラスト」フィルムの作用です。「高コントラスト」フィルムの急勾配の特性曲線により、わずかな 露光 の違いが、大きな 濃度 の違いに「拡大」されるのです。最近の傾向として、高コントラストのマンモグラフィー画像が求められることが多く、フィルムの設計、現像液の浸漬時間の延長、または「マンモグラフィー」専用処理薬品などによって高コントラストが実現されるため、この「濃度差」問題の発生頻度は増えています。1995年に米国放射線医学会(ACR)が発表した最新マンモグラフィー装置/スクリーン/フィルムシステム、受像器、およびフィルムプロセッサーの推奨仕様(ACRより入手可能:1-800-227-7762)において、種類とメーカーが同じで製造後年数もほぼ同じフィルムについて、露光と現像を同時に行った場合の推奨光学濃度差は最大0.30(濃度約1.25の場合)とされており、この値が製品製造時の変動の許容範囲に反映されています。この資料によれば、想定されるこの変動をユーザー側で調整する方法として、必要に応じてAECの「濃度」コントロールを変更することが推奨されています。また、濃度比較のための「分割フィルム」テストの実施も強く推奨されています。疑似スクリーンライトを使用してフィルム反応を予測する場合と、実際のX線露光条件でフィルムスクリーンの反応を比較する場合で、さまざまな食い違いが生じる可能性があるため、フィルムの感度(またはスピード)の違いを予測するために市販の感光計は使用しないよう警告しています。
フィルムスクリーンによるマンモグラフィー撮影を行う場合は、こうした可能性を認識し、使用するマンモグラフィーX線装置専用の自動露出制御(AEC)装置で補正調整を行うようにしてください。また、フィルム乳剤による変動の可能性もあるため、マンモグラフィーのクオリティコントロールに使用するフィルム乳剤のロットが変わる場合には、必ず適切な「クロスオーバー」を算出することが重要です。クロスオーバー手順を行わないか、または不適切に実施された場合、現像条件の監視能力(QCチャートの信頼性など)は、直ちに疑わしいものになります。
また、ほとんどのフィルムは年数の経過とともに感度測定反応が変化するという事実もあります。通常、「スピード」や「コントラスト」の測定値は低下します。保管に関する推奨ガイドラインに示した温度や相対湿度が守られていない場合、感度測定反応の変化が早まる場合もあります。「スピード」や「コントラスト」のこうした変化は、感光計による露光で測定可能な濃度変化を生む可能性がありますが、時間経過とともに生じる微少でゆるやかな変化は、診療画像では必ずしも認識されない場合もあります。
通常、画像診断に使用されるフィルムは、品質管理用に取り分けられるフィルムセットよりも早く変質します。監視対象のプロセッサーが1台のみの場合はなおさらです。こうした場合、処理済みフィルムの濃度差の分析要因としてフィルムの製造後年数を加える必要があり、フィルムメーカーは要請に応じて乳剤の経年変化に関する情報を公表できる必要があります。温度と相対湿度の推奨条件を満たすことができない場合は、品質管理で使用するフィルムの交換頻度を高めることをお勧めします。
- 処理薬品のブランド、種類、混合の均一性、および製造後年数
処理薬品の状態は、フィルム濃度を許容範囲内に維持する上で極めて重要です。処理薬品のブランドが異なると、同じフィルムに対する「スピード」や「コントラスト」に変化が生じることが確認されています。薬品の種類(「マンモグラフィー専用現像液」など)が異なると、 同じ ブランドでもこれと同様またはそれ以上の重要な変化をもたらす可能性があります。特定の種類の現像液やフィルムプロセッサーに推奨される温度情報は、ほとんどの場合、フィルムやプロセッサーの製造メーカーや指定販売店で入手できます。処理薬品の混合方法は手動と自動では異なり、メーカーの仕様に当てはまるように混合する責任は、処理薬品を混合する当事者にあります。処理薬品の完全性について実施されるpHや比重などの一般的な検査は、その薬品の「全容」を示すものではありません。pHの測定値が適切でも、それだけで溶液が適切に混合されているとは保証されず、比重の測定値だけでは、現像液のカブリ防止剤などの重要な成分が不足しているかどうかを明確に判別することはできません。また、検査装置のキャリブレーションと測定時の温度は、正確なデータを取得する上で非常に重要です。
処理薬品の酸化や混合された処理薬品の経過時間は、処理後のフィルム濃度に影響する要因に加えられます。処理薬品の変質を防ぐためのメーカーの指示への準拠、補充液タンク内での浮き蓋の使用やプロセッサーの適切な排気などにより、時間の経過による変動を低減し、処理薬品の酸化を最小限に抑えます。
- フィルム処理薬品の化学変化(シーズニング)
フィルムを現像すると、新しい処理溶液に化学変化が発生します。この変化は総称して「シーズニング」と呼ばれ、処理後のフィルム濃度に明確な影響を及ぼします。これは、プロセッサーに送られるフィルムの数と種類によりシーズニングが変化し、シーズニングの度合いに応じてフィルム濃度が変化する、という複雑な問題です。現像用の「開始液」溶液は、新たに混合した処理薬品をすぐにシーズニングされた状態にするために加えるもので、これにより処理後のフィルム濃度の変動を抑えます。ただし、フィルムの現像による副作用で新たなシーズニングが追加されるため、ほとんどの場合は現像開始液溶液を追加しても、時間が経つに連れて発生するある程度の濃度変化を完全に抑制することはできません。
すべての現像開始液溶液の調合内容は同じではなく、このことも濃度変動の原因となり得ます。一部のブランドの現像開始液溶液は、フィルムメーカーの指定する感度測定性能を満たしていない場合があります。こうした理由から、現像開始液溶液としては、現像液との併用を前提に作られている同じメーカーのものを使用することが適切です。
- フィルム処理での処理薬品の補充量
処理薬品の補充量を適切に規定することは、処理後のフィルム濃度を許容範囲内に安定させておくために重要です。処理薬品の適切な補充量については、フィルムや処理薬品の製造メーカーにお問い合わせください。補充量は、さまざまな要因により変化します。そうした要因には、処理されるフィルムの数と種類、フィルム濃度、プロセッサーにフィルムを送る際のシートの向き、同時に送るフィルムの枚数(1枚ずつか2枚同時か)、プロセッサーが1種類のフィルム処理専用か複数の種類やブランドのフィルムの処理用か、などがあります。場合によっては、フィルム現像液の補充量を計算するソフトウェアに修正を加えた方がよいこともあります。時間による処理薬品の組成の変化やフィルム乳剤の変更により、推奨される補充量の変更が促される場合があります。補充量の推奨データは、通常、製造メーカーまたは処理薬品の販売店から入手できます。サービス情報(30号)には、Carestreamフィルム用補充液の推奨補充量が記載されています。
この文書は、自動ファックスシステム(1-800-336-4722、ドキュメント番号11)でも入手できます。
- X線機器の違い
X線を発生する機器が異なると、処理後のフィルム濃度を左右するさまざまな要因が生まれます。同じメーカーの類似モデルの2台の機器でも、フィルタリングされるビーム量が異なるなど、機器単位で変動がある可能性があります。このため、特定の濃度測定で検査、監視されるフィルムの処理には、必ず同一のX線機器を使用してください。もちろん、同一のX線露光装置で設定パラメータを同じにしていても、露光レベルに変化が生じる可能性はあります。機器に関する問題については、医学物理士にお問い合わせください。 - 経年変化によるX線露光装置のキャリブレーション精度への影響
X線機器の露光精度と再現性を維持するため、定期的なテストを実施することで、処理後のフィルム濃度の変動原因を抑制または排除します。 - X線露光設定の選択
露光パラメータの設定は同一ですか?露光設定が同じでも、項目1で説明したように、時間の経過とともに乳剤が変動する可能性があり、その他にも、この文書で説明しているあらゆる変動要因を考慮する必要があります。 - AECセルの選択とセルの位置
同じAECセルを選択し、その位置を変更しないようにすることで、露光やフィルム濃度の変動が抑制されます。 - AECセルに対するファントムまたは人体部分の位置
AECセルの位置に対するファントムや人体部分の位置を特に配慮することで、こうした変動が抑制または排除されます。 - 使用するコリメータの違い
通常、コリメータの変更は散乱放射線の発生に影響し、これが露光全体、画像コントラスト、および患者への線量に影響します。コリメータを変更すると、処理後のフィルム濃度が変化する可能性が高まります。 - 安全灯の完全性/状態
安全灯の状態が適切でない場合、フィルムの曇りが増し、感度の増加または中間濃度の増加が発生し、画像コントラストと濃度差の測定値が低下する可能性があります。暗室の安全灯をすべて定期的に点検して、暗室でのフィルム処理が適切かつ安全な時間内で行えるようにする必要があります。Carestreamでは、安全灯と安全灯の点検に関する情報を記載したパンフレットを販売しています(カタログ番号 848 0733、各1ドル)。お電話でご注文いただくか (1-800-677-9933)、 インターネットからダウンロードしていただけます。 - フィルムを送る際の乳剤面の向き(表裏)
フィルム、プロセッサーのブランドやモデル、および使用するプロセッサーの再循環特性によっては、片面塗布フィルムをプロセッサーに送る際に乳剤面を表にするか裏にするかで、フィルム濃度が変化する可能性があります。この可能性と、特定種類の現像アーチファクトの減少などを考慮して、フィルムやプロセッサーの製造メーカーでは、片面塗布フィルムの現像時の裏表を指定するようになってきています。それでも、各プロセッサーを個別に評価してフィルム乳剤面の方向を特定することは、全体的な現像品質の向上につながります。方向を特定した後は、誰もが指定された同じ方向でフィルムを送るように指導し、一貫性を保って処理後のフィルム濃度の変動の可能性を最小限に抑えるようにします。 - フィルムを送る際のフィードトレイ内での位置(右側、左側、中央)
使用するフィルムプロセッサーの内蔵タンクやラックコンポーネント内での動的な再循環パターンと、再循環システムの条件により、タンクの片側と反対側とで現像処理が若干異なる場合があります。このわずかな現像処理の違いは、通常の診療画像の表示には影響しませんが、単純なファントムや感光ストリップの 濃度測定 では、この違いが発生した場合に検出されることがあります。 - 使用するカセッテの違い
種類とブランドが同じでも、カセッテが異なるとX線の減衰特性や透過特性が若干異なり、処理後のフィルム濃度の変動に影響する場合があります。これを要因とする濃度変動は、通常では診療画像の表示には影響しませんが、カセッテ内で露光したフィルムで 濃度測定 を行い、これを比較する場合は、同一のカセッテを使用してこの要因を排除することをお勧めします。 - 使用する増感スクリーンの違い
増感スクリーンの「スピード」は、スクリーンの種類とブランドが同じでも、蛍光体の被覆のばらつき、スクリーン構造の改良、長年使用するスクリーンクリーナーの種類などの要因によって異なる場合があります。このため、特定領域での処理後のフィルム濃度を測定/比較するために、ファントム撮影やX線画像撮影を行う際には、同一のスクリーンとカセッテを使用することをお勧めします。ACRのマニュアルでは、1つの診療部門ですべてのマンモグラフィー用カセッテとスクリーンを測定する場合、光学濃度の差は0.30を上限とすることが推奨されています。この濃度変動の検査は、『American College of Radiology 』の品質管理マニュアルに記載されているガイドラインに従って行ってください。 - カセッテ内のフィルム乳剤面の適切な方向
片面塗布フィルムを挿入する際に、フィルム乳剤とスクリーンの向きを誤るとシステムの感度に大きな違いが生じ、処理後のフィルムに大幅な濃度変化が生じるため、すぐにわかります。 - 使用するファントム(テスト対象物)の違い
ファントムやテスト対象物の構造やX線の減衰には若干の違いがあり、処理後のフィルム濃度の変動につながる可能性があります。このため、フィルムの濃度を測る際には、いつも同じファントムやテスト対象物を使用した方が賢明です。 - 非専用型プロセッサーでのフィルムの混在
マンモグラフィーフィルムが他の種類やブランドのフィルムと一緒に処理される「非専用型」プロセッサーでは、ある程度の量の異なるフィルムを混在させると、処理薬品の「シーズニング」に作用し、その結果、処理後のフィルム濃度に影響が出る場合がある、というテスト結果が出ています。こうした非専用型の現像環境では、フィルムの種類やブランドの混在処理に関して追加情報や警告があるかどうかを、フィルムや処理薬品の製造メーカーにあらかじめ問い合わせておくとよいでしょう。 - フィルムを現像するまでの時間の変動
同じフィルムの場合でも、露光から現像処理が開始されるまでの時間が異なると、濃度変化が発生する可能性があります。この要因は「潜像保存」(LIK)として知られ、X線露光や感度測定露光の後、必ずしも同じ時間内にフィルム処理がなされない場合に、これを考慮する必要があります。一般的に、同じ時間間隔(露光後0~48時間など)で測定を行った場合、潜像保存特性は、損失率の点でフィルムの平均諧調度よりもフィルムの感度に影響する傾向があります。移動診療などで撮影後すぐに現像しない状況では、特定の濃度測定を実施して比較する際に、これが重要な変数になります。潜像保存特性はすべてのフィルムで同じではないので、フィルムメーカーは要請に応じてこのデータを公表できるようにする必要があります。ACRでは、マンモグラフィーフィルムでのLIKによる光学濃度の減少として、濃度約1.25で0.15以内を推奨しています。LIK特性が問題になる現像環境では、一貫性を保つために現像までの待機時間を同一にして、必要に応じてAEC回路を調整して補正することが推奨されています。
- フィルムの相反特性
「相反則不軌」は、特定のフィルム乳剤の反応や感度の非線形性を表すために用いられる用語で、通常は非常に短い露光時間や非常に長い露光時間、またはその両方の極端な状況で発生します。このため、手動または自動露出制御(AEC回路)により設定された露出因子によっては、特定の露光条件において処理後のフィルム濃度が再現できない場合があります。今日では、臨床の患者やファントムに対するマンモグラフィー撮影のほとんどが、自動露出制御を使用して実施されます。使用されるフィルムとスクリーンの組み合わせ、露光装置とAECの製造年代や状態、患者またはファントム、およびその他の要因を総合したシステムスピードによって、一部の露光時間がフィルムの相反特性を考慮しなければならない範囲になる可能性があります。現在適切とされる露光時間は約1秒から1.5秒です。2秒以上の露光時間は、患者の動きや相反則不軌、またはその両方を引き起こす可能性があります。X線露光装置、フィルムとスクリーンの組み合わせなどの条件によっては、露光を2秒以内に収めるため、電圧を引き上げる必要があります。この判断については、医学物理士にお問い合わせください。
最新のX線マンモグラフィー専用装置には、こうした相反性変数を最小限に抑える、自動補正機能や安全装置が装備されています。